前回の「AI導入の具体的なステップ・費用感」で開発委託についてお伝えしましたが、「自分たちで作った方が安いのでは?」というご質問をいただきました。今回は内製化と外注、それぞれのメリット・デメリットを客観的に比較します。
⚖ 内製 vs 外注:総合比較表
項目 | 内製(自社開発) | 外注(開発委託) |
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初期費用 | ||
継続費用 | ||
開発期間 | ||
技術的リスク | ||
カスタマイズ性 | ||
保守・改善 | ||
総合難易度 |
🏠 内製化(自社開発)の場合
開発環境整備:数十万円〜
開発期間:6〜12ヶ月
システム運用費:数十万円〜
研修・スキルアップ費:数十万円〜
- 長期的なコスト優位性
3年目以降は外注より安くなる可能性 - 完全カスタマイズ可能
自社の業務に100%フィット - ノウハウの蓄積
社内にAI・システム開発のスキルが蓄積 - 機密性の確保
社内データが外部に出ない
- 人材確保の困難さ
AI開発できるエンジニアの採用は超困難 - 技術的リスク
「作ったが使えない」リスク - 時間コスト
戦力になるまで最低1年 - 退職リスク
キーマンの退職で開発ストップ
🏢 外注(開発委託)の場合
要件定義・設計:開発費に含む
機能追加・改善:別途見積
- 即座に開始可能
契約後すぐに開発開始 - 技術リスクの回避
専門家による設計・開発 - 予算の明確化
開発費用が事前に確定 - 継続サポート
開発会社による継続サポート
- 高い初期費用
まとまった開発費用が必要 - 依存関係の発生
開発会社に依存する構造 - カスタマイズの制約
完全自由な変更は困難 - ブラックボックス化
内部仕組みが見えない
📊 投資回収期間の比較
内製化の場合
初期: エンジニア採用・環境整備で数百万円〜千万円台
継続: 年間人件費が数百万円〜千万円台
特徴: 高い初期投資、長期で見ればコスト優位の可能性
外注の場合
初期: 開発費用は百万円台〜(規模による)
継続: 年間運用費は数十万円〜百万円台
特徴: 予算計画が立てやすく、確実な効果
投資回収の考え方
※実際の費用は企業規模や要件により大幅に変動します
🎯 どちらを選ぶべき?判断基準
- 年商50億円以上の大規模企業
- IT人材の採用・育成に積極的
- 長期的な投資が可能(5年以上)
- AI・システム開発を事業の柱にしたい
- 技術的なチャレンジを重視
- 年商30億円以下の中小企業
- 早期の効果実現を重視
- コア業務に集中したい
- 技術リスクを避けたい
- 確実な成果を求める
⚠ 中小企業における現実的な課題
- 人材市場の現実
AI開発できるエンジニア:極めて希少、年収相場も高水準 - 事業の優先順位
本業のサービス・商品が第一、IT投資は効率化手段 - リソースの制約
限られた予算と人員での経営が前提
- 製造業(中規模)の事例
内製化を試みるも2年で方針転換→外注で成功 - IT企業(大規模)の事例
長期投資で内製化成功も、累積投資額は相当な規模 - 多くの中小企業の現実
外注からスタートして段階的に検討するパターンが主流
💡 現実的な選択肢:「ハイブリッド型」
段階的アプローチのススメ
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Phase 1:外注でスタート(1〜2年)
まず外注で基本システムを構築し、効果を実感しながらノウハウを蓄積
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Phase 2:部分的内製化(3〜5年)
簡単な改修は社内で対応、複雑な開発は引き続き外注で徐々に内製比率を向上
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Phase 3:完全内製化(5年以降)
十分なノウハウ蓄積後に内製化、リスクを最小化した移行
この方法なら、外注のメリットを活かしながら、将来的な内製化への道筋も確保できます。
📚 今月のコラム
「『餅は餅屋』の現代版」
「餅は餅屋」ということわざがありますが、AI開発においてこれ以上適切な表現はないかもしれません。
学習塾の経営者が「うちでもエンジニアを雇ってAI作ろう」と考えるのは、八百屋さんが「うちでも職人雇って餅作ろう」と言うのと似ています。
もちろん不可能ではありません。でも、八百屋の店主が餅作りを覚える時間があれば、その時間で野菜をもっと良く売る方法を考えた方が、はるかに効果的ではないでしょうか。
AI開発も同じです。中小企業の経営者なら、AI開発を学ぶ時間で「どうやって顧客満足度を上げるか」「どうやって従業員のモチベーションを上げるか」を考えた方が、会社の成長につながります。
「餅は餅屋に頼んで、自分はもっと大切なことに集中する」
これが現代の賢い経営判断だと思います。